甲斐犬は、山梨県・長野県の山間部で猟犬として飼われていた日本犬です。
原産地の山梨県が昔は『甲斐の国』と呼ばれていたことから甲斐犬という名称が付けられました。
熊や猪にも怯まない勇猛な性質をもちながら、飼い主とその家族には非常に従順で、家庭犬としても非常に優れた資質をもっています。
飼い主以外の人間に心を開かず、唯一人の主人(飼い主)に一生忠誠を尽くすことから『一代一主の犬』と言われています。
甲斐犬の故郷は山梨県南アルプス市芦安村であると言われていますが、芦安村の地形(森林が96%を占める南アルプス山麓の懐に抱かれた標高718〜1382mの段丘に8集落が点在、両側に急傾斜の山々が連なっている)による
「周辺地域からの隔離」および「同種で群れて他種を嫌う性質」が甲斐犬の純粋性を保っていた大きな要因と考えられています。
この地域では、昭和初期までは狩猟が生活の糧であり、甲斐犬は虎犬と呼ばれて、狩猟の良きパートナーとして活躍していました。
「甲斐日本犬愛護会」設立趣意書(安達太助氏)より
一代一主、主人には絶対に忠実で、他人には容易に馴れつかぬのみか、主人の危急に際しては身を挺して敵に当たり、死もまた辞さない。
立耳、巻尾の、あたかも犬張り子のような体型の持ち主で、その体型や気性から受ける感じは、素朴な古武士の面影を彷彿させるに十分なり。
鏑木博士「甲斐犬」と命名
文部省告示第16号により天然記念物に指定されるまで、甲斐犬には正式の呼称がありませんでした。
文部省告示で「天然記念物 甲斐犬」として公式名称を持つに至りましたが、その名付け親は鏑木岐雄博士です。
*鏑木岐雄氏は、東京大学教授、國學院大学教授、東京大学名誉教授、宇都宮大学長を歴任した動物学者・昆虫学者です。
甲斐犬の標準
●本質及び外貌
性徴良く表し、素朴にして沈着勇猛性を備え、行動軽快にして、敏捷迫力があり特に帰家性強く、一代一主的傾向が強い。
表毛剛直にして綿毛は密であり、蓑毛を有する。
毛色は、黒虎毛・中虎毛・赤虎毛の三つに分類される。
体型的には猪型、鹿型がある。
体高はほぼ40〜50cm
●耳
適度に厚く三角形をなし形良く前傾し、耳の間適度な広さを有し、耳の線緩みなく、他の日本犬種よりやや大きめである。
●目
やや三角形にして、虹彩暗褐色を呈し、毛色により多少の濃淡あり。
●口吻
口唇良く締まり色素良く、歯牙強靭、噛み合わせ正しい。
●頭頸
額広く額段適度に落ち込み、頸部適度な太さと長さを有し、緩み無きもの。
●背腰
背線直にして、腰力強く締まっている。
●胸腹
胸深く、腹部適度に引き締まる。
●尾
尾は太く力強い差尾または巻尾で、長さはほぼ飛節に達するものとする。
●四肢
強健にして飛節特に発達し強固にして且つ跳躍力、疾走力に富む。
●文部省天然記念物指定告示の添え書き
主トシテ山梨県下ニ飼育セラレルモノニシテ中北系日本犬ニ属スルモノナリ中型ニシテ四肢強健飛節良ク発達シ毛粗剛ニシテオオムネ黒色及茶褐色ノモノ相半シ虎斑ヲ呈ス